2026年8月28日
借り上げ社宅と家賃補助の違いは、賃貸契約の名義で決まります。
会社が法人名義で借りて住居そのものを従業員に提供するのが借り上げ社宅、従業員が借りた物件の家賃を現金で補助するのが家賃補助(住宅手当)です。
この違いによって、従業員の手取りや会社が負担する社会保険料、経理上の扱いまで変わります。
最近では、社会保険料の事業主負担や社員間の公平性を理由に、家賃補助から借り上げ社宅への切り替えを検討する企業もみられます。
ただし、税金や社会保険の面で有利だからという理由だけで制度を変更できるわけではありません。
そこで今回は、社宅・社員寮向け物件の仲介実績が豊富な日立プロパティアンドサービスが、借り上げ社宅と家賃補助の違いを、手取り・社会保険料・運用の手間の3つの視点からわかりやすく解説します。
あわせて、自社で無理なく導入・運用できるかを判断するためのポイントもご紹介しますので、ぜひ最後までごらんください。
株式会社日立プロパティアンドサービスでは、借り上げ社宅の導入検討から物件のご紹介、契約・管理までを一貫してサポートしています。
住宅手当から借り上げ社宅への切り替えをご検討中の企業さまや、家具・家電・食事付きマンションを社宅として法人契約したい企業さまは、お気軽にご相談ください。
<このコラムを読んだらわかること>
借り上げ社宅と家賃補助は、どちらも会社が従業員の住居費を支援する制度です。
一方で、契約名義や税務・社会保険の扱いなど、実務上は大きな違いがあります。
両制度の主な違いは、以下のとおりです。
| 項目 | 家賃補助(住宅手当) | 借り上げ社宅 |
|---|---|---|
| 賃貸借契約の名義 | 従業員 | 会社 |
| 家賃の支払先 | 従業員が貸主へ | 会社が貸主へ |
| 従業員が受け取るもの | 現金 | 住居そのもの |
| 従業員の所得税・住民税 | 支給額の全額が課税対象 | 賃貸料相当額の50%以上を社宅使用料として徴収すれば課税されない |
| 社会保険料の算定基礎 | 支給額の全額を含める | 社宅使用料が現物給与価額以上であれば含めない |
| 会社の経理処理 | 給与手当 | 福利厚生費・地代家賃 |
| 物件の契約・管理 | 従業員 | 会社 |
名義が変われば、税も社会保険も経理も管理も、すべて連動して変わります。
注意したいのは、判定に使われるのが社内での呼び方ではないという点です。
たとえば、会社が法人名義で契約し、家賃を支払ったうえで「家賃補助制度」と社内で呼んでいる場合、その実態は借り上げ社宅です。
一方で、契約名義が従業員のままの場合は、原則として住宅手当と同様の取り扱いになります。
制度の名称だけでは、税務上どちらに該当するかは判断できません。
自社の制度がどちらに当たるのかを確認するときは、社内規程ではなく、まず賃貸借契約書を確認しましょう。
社宅制度そのものの位置づけや福利厚生としての役割は、こちらの記事をごらんください。
〈関連コラム〉
会社が負担する金額が同じでも、そのお金の届き方は制度によって変わります。
従業員の手取りは借り上げ社宅のほうが増える一方、会社側で差がつくのは社会保険料の事業主負担と運用の手間です。
ここでは、家賃8万円の物件に住む従業員へ、会社が月4万円を負担するケースで解説します。
| 項目 | 家賃補助(住宅手当) | 借り上げ社宅 |
|---|---|---|
| 会社が負担する額 | 月4万円 | 月4万円 |
| 従業員が受け取るもの | 現金4万円 | 会社負担4万円分の住居 |
| 従業員が支払う家賃 | 月8万円(貸主へ) | 月4万円(社宅使用料として会社へ) |
| 従業員の所得税・住民税 | 4万円分が課税対象 | 課税されない |
| 社会保険料の算定基礎(労使とも) | 4万円分が加わる | 加わらない |
| 会社の損金算入 | 全額 | 全額 |
| 会社の実務工数 | 手間は少ない | 契約・管理の手間が生じる(外部委託で軽減可能) |
※上記は、社宅使用料を次のとおり設定した場合の扱いです。
・所得税・住民税が課税されない条件:賃貸料相当額の50%以上を徴収
・社会保険料の算定基礎に加わらない条件:現物給与価額以上を徴収
賃貸料相当額と現物給与価額は、いずれも物件ごとに異なります。自社の設定額については顧問の税理士・社会保険労務士へご確認ください。
借り上げ社宅のほうが手取りが増える理由は、会社が負担する4万円が給与ではなく、住居の提供として扱われるためです。
家賃補助は給与に上乗せして支給されるため、支給額の全額が所得税・住民税の課税対象となります。
社会保険料の算定基礎にも含まれるため、会社が4万円を支給しても、従業員の手取りがそのまま4万円増えるわけではありません。
一方、借り上げ社宅で従業員が受け取るのは住居そのものです。
社宅使用料を賃貸料相当額の50%以上徴収するなど、国税庁の基準を満たしていれば、会社が負担する家賃は給与として課税されません。
そのため、同じ会社負担額でも、従業員の手取りは家賃補助より多くなります。
会社側で実質的に差がつくのは、社会保険料の事業主負担です。
家賃補助は標準報酬月額に反映されるため、支給額に応じて事業主負担も増えます。
借り上げ社宅では、社宅使用料を現物給与価額以上に設定するなど、社会保険上の要件を満たしていれば、その家賃負担は標準報酬月額に含まれません。
注意したいのは、法人税では差がつかないという点です。
借り上げ社宅は「福利厚生費として処理できるため節税になる」と説明されることがあります。
ただし家賃補助も給与手当として全額を損金に算入できるため、どちらの制度でも損金の額は変わりません。
勘定科目が違うだけで、法人税の計算に影響しないためです。
会社にとっての実利は、社会保険料の事業主負担を軽減できる点にあります。
標準報酬月額が下がることには、別の側面もあります。
標準報酬月額は、厚生年金の受給額や傷病手当金、出産手当金などの算定にも使われるためです。
社会保険料の負担が軽くなる一方で、将来受け取る給付も同じ基準で下がります。
借り上げ社宅への切り替えを従業員へ説明するとき、手取りが増えるという面だけを伝えると、後から不信を招く原因になります。
両面を示したうえで制度の意図を共有することが、切り替えを進めるうえでは欠かせません。
借り上げ社宅が向いているかどうかは、企業の規模だけでは判断できません。
転勤や異動の有無、従業員の住まい方、総務の運用体制などによって、導入効果は大きく変わります。
以下の7つの項目について、自社がどちらに当てはまるかを確認してみましょう。
借り上げ社宅は、転勤や異動が定期的に発生する企業ほど効果を発揮します。
転勤では、辞令から赴任までの期間が短く、十分な時間をかけて住まいを探せないケースが少なくありません。
また、敷金・礼金・仲介手数料などの初期費用が転勤のたびに発生し、単身赴任では二重の住居費も生じます。
家賃補助で会社ができるのは、住居費の一部を現金で補助することだけです。
物件探しや契約手続き、初期費用の立て替えは、すべて従業員に残ります。
一方、借り上げ社宅なら会社が法人契約を結ぶため、赴任日に合わせて物件を手配できます。
全国に拠点がある企業や、広いエリアから人材を採用している企業では、住まいの手配を標準化できる点も大きなメリットです。
借り上げ社宅が、すべての企業に適しているわけではありません。
厚生労働省の「令和7年就労条件総合調査」によると、家賃補助を支給している企業は45.7%です。
令和2年の47.2%から減少したものの、現在も半数近い企業が家賃補助(住宅手当)を続けています。
それぞれの働き方や従業員構成に合っているためです。
〈出典〉 厚生労働省ウェブサイト:令和7年就労条件総合調査の概況「賃金制度 (3)諸手当」
第17表「諸手当の種類別支給企業割合」参照
たとえば、転勤がほとんどなく、拠点も1か所に集約されている企業では、借り上げ社宅を導入しても効果を十分に得られないことがあります。
持ち家の従業員が多い企業も同様です。
借り上げ社宅を利用できる対象者が限られるため、物件管理や契約手続きといった運用の手間だけが増えてしまうおそれがあります。
制度は、「税や社会保険で有利だから」という理由だけで選ぶものではありません。
自社の働き方や従業員構成に合った制度を選ぶことが重要です。
株式会社日立プロパティアンドサービスでは、借り上げ社宅の導入検討から物件のご紹介、契約・管理までを一貫してサポートしています。
住宅手当から借り上げ社宅への切り替えをご検討中の企業さまや、家具・家電・食事付きマンションを社宅として法人契約したい企業さまは、お気軽にご相談ください。
借り上げ社宅への切り替えは、手順そのものが複雑なわけではありません。
一般的には、以下の流れで進めます。
一方で、実務で見直しや再調整が発生しやすいのは「制度設計」ではなく、「物件の確保」と「社宅使用料の設定」です。
ここでは、切り替えをスムーズに進めるために押さえておきたい5つのポイントを紹介します。
家賃補助を廃止して借り上げ社宅へ切り替える場合、労働条件の不利益変更に当たる可能性があります。
労働契約法では、就業規則の変更によって労働条件を従業員に不利益に変更する場合、原則として従業員の合意が必要と定められています。
そのため、制度として借り上げ社宅が有利だからといって、一律に家賃補助を廃止することは適切ではありません。
実務では、以下の対象者を限定し、段階的に借り上げ社宅へ移行する企業が多く見られます。
借り上げ社宅への切り替えでは、社宅規程の整備と物件の確保を並行して進めることが重要です。
社宅使用料は、固定資産税の課税標準額や部屋の広さといった、実際の物件情報をもとに算出します。
そのため、物件が決まらなければ社宅使用料を決められません。
社宅使用料が決まらなければ、社宅規程も従業員への説明資料も確定できません。
株式会社日立プロパティアンドサービスは、首都圏エリアと関西エリアの社宅・社員寮向け物件をご紹介しています。
社宅使用料を設定するときは、「所得税」「社会保険」それぞれ異なる基準を満たす必要があります。
| 項目 | 所得税 | 社会保険 |
|---|---|---|
| 基準 | 賃貸料相当額 | 現物給与価額 |
| 所管 | 国税庁 | 厚生労働省・日本年金機構 |
| 満たす条件 | 賃貸料相当額の50%以上を徴収 | 現物給与価額以上を徴収 |
よく知られている「賃貸料相当額の50%以上」という基準は、所得税のルールです。
社会保険では適用されません。
税金と社会保険の両方で有利な制度とするためには、それぞれの基準を満たす社宅使用料を設定する必要があります。
また、現物給与価額は物件所在地ではなく、勤務地の都道府県を基準に算定する点にも注意しましょう。
〈出典〉 国税庁ウェブサイト:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
2026年10月1日から、住宅の現物給与価額の算出方法が改正されます。
これまでは居室部分の畳数を基準としていましたが、改正後は玄関や廊下、浴室などを含めた総面積が対象です。
現物給与価額は、厚生労働大臣の告示にもとづき、日本年金機構が一覧表として公表しています。
たとえば、東京の計算例では、居室16畳・総面積40㎡の住宅で現物給与価額が45,280円から53,200円へ変わります。
現在の社宅使用料が基準を満たしていても、改正後は現物給与価額を下回る可能性がある点に注意が必要です。
そのため、すでに借り上げ社宅を運用している会社も社宅使用料を見直しておくことが大切です。
〈出典〉 日本年金機構ウェブサイト:「全国現物給与価額一覧表(令和8年度)」
食事付きマンションを社宅として利用する場合は、住宅の社宅使用料とは別に、食事代の設定も確認する必要があります。
食事の現物給与価額は、厚生労働大臣の告示により2026年4月1日から改定されています。
食事については住宅とは異なる判定基準があり、現物給与価額の3分の2以上を従業員から徴収していれば、現物給与として算入されません。
一方、徴収額が基準を下回る場合は、その差額が標準報酬月額に反映されます。
食事付きマンションを社員寮として導入する方法は、以下の記事で解説しています。
〈関連コラム〉
食事付きマンションを社員寮として導入する方法|物件選定のポイントと注意点
借り上げ社宅と家賃補助についてよくある質問に回答します。
Q. 勤務地と社宅が別の都道府県にある場合、どちらの基準で計算しますか?
A. 社会保険における住宅の現物給与価額は、社宅の所在地ではなく、従業員が勤務する事業所の所在地(勤務地)の都道府県を基準に算定します。
たとえば、神奈川県にある社宅に住み、東京都内の事業所へ勤務する場合の基準は、東京都の現物給与価額です。
一方、所得税の賃貸料相当額は、建物や土地の固定資産税の課税標準額などをもとに算定するため、社会保険とは基準が異なります。
Q. 持ち家の従業員は、借り上げ社宅の対象外になりますか?
A. 必ずしも対象外になるわけではありません。
一般的には、借り上げ社宅は住居そのものを提供する制度のため、持ち家の従業員は対象になりません。
ただし、社宅規程によっては、転勤や単身赴任など一定の条件を満たす場合に、持ち家の従業員でも借り上げ社宅を利用できるケースがあります。
自社の人事制度や福利厚生の考え方に合わせて対象者を設定しましょう。
Q.2026年10月の現物給与価額の改正は、家賃補助にも影響しますか?
A. 影響しません。
現物給与価額は、住宅や食事を現物で支給する場合に金額へ換算するための基準です。
現金で支給する家賃補助は、もともと支給額の全額が標準報酬月額に算入されるため、改正の対象になりません。
この記事では、借り上げ社宅と家賃補助の違いを、手取り・社会保険料・運用の手間の3つの軸から解説してきました。
両制度を分けているのは賃貸契約の名義という一点で、会社の負担額が同じであれば、従業員の所得税・住民税と、会社の社会保険料の両面で有利になるのは借り上げ社宅のほうです。
ただし社宅使用料の下限は物件が決まらなければ算出できず、2026年10月1日には社会保険の現物給与価額の基準も変わるため、規程の整備と物件の確保を並行して進めることが欠かせません。
日立プロパティアンドサービスでは、首都圏エリアと関西エリアの社宅・社員寮向け物件を、社宅使用料の設計に必要な専有面積とあわせてご紹介しています。
制度の切り替えをご検討の際に、本記事がお役に立てば幸いです。
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